蕎麦という食べ物はラーメンやうどんと同じ麺類なのに、食べ方にいろいろな制限やマナーがありそうでちょっと近寄りがたい感じ、ありませんか? このコラムでは基本の食べ方をレクチャーしつつ、マメ知識を交えながら「ツウ」で「イキ」な食べ方を伝授します。 これを最後まで読めば、もう気後れする必要はありません。
1. はじめは蕎麦本来の味を楽しもう
1-1.塩をかけて食べるのも粋
蕎麦は何といっても香りを楽しむ食べ物です。まずはつゆや薬味を使わず、2、3本つるりとすすってみましょう。鼻に抜ける香り、食感、さわやかなのど越しを感じられれば、すでにあなたも「そば通 への扉を開け、第一段階をクリアしたと言っても過言ではありません。もちろん、なんだかよくわからない、という人もいるでしょう。しかし諦める必要はありません。これはいわゆる最初の作法として記憶しておいてください。何度かトライしているうちに徐々に感じられるものですから、構わず次の段階に進みましょう。
ちなみに何もつけずに食した後に、ほんの少しの塩で食べるのも粋な食べ方です。塩は蕎麦の風味や甘みを引き立てる役割がありますから理にかなった食べ方でもあります。
1-2.蕎麦の本来の味を堪能した後に「蕎麦つゆ」
蕎麦本来の味を堪能したら、つぎはつゆです。と言っても蕎麦をつゆに浸して食べるのではなく、つゆだけを唇に触れる程度味わってみましょう。この時「飲む」というイメージではなく、「ダシと醤油の風味を見る」という感覚でいるように注意してください。可能であれば、このつゆが「辛口の関東風」なのか「薄目な関西風」なのかを見極めましょう。
しばしば「そば通」を気取る人が、蕎麦はあまりつゆに浸さないのがツウという語り方をしますが、これは正確ではありません。じゃぶじゃぶ漬けるのは確かに粋ではありませんが、塩味が濃い辛口の関東風のつゆにはあまり浸すと蕎麦の本来の味がわからなくなるという意味合いから軽く浸すという習慣ができたのです。
蕎麦もつゆも自然由来の味を楽しむものです。しかし、同じ店でも収穫された原料や日々の温度・湿度によって微妙に味は変わります。このことから蕎麦のみ、つゆのみをまず味わうのはそのコンディションを見る、ということでもあるのです。それを踏まえて、今日この店ではつゆに軽めに浸す、あるいはもう少し深く浸す、その調整ができるのが本当の「通」です。
2. そばつゆに浸さずに食べるのが通の食べ方
2-1. 薬味はつゆに入れずに直接蕎麦にのせる
基本的に薬味の役割は、味のアクセントをつけることと、栄養価を付加したり、消化を助けたりすることです。現在は蕎麦の薬味と言えば一般的なものがネギとわさびです。場所によってはゴマや大根おろしが添えられている場合もあります。
実は江戸時代には大根おろしの方が一般的で、それが無い場合にわさびで代用していたそうです。蕎麦に含まれるルチンは毛細血管を強くする効果を持ち、動脈硬化や高血圧を防いでくれますが、大根おろしも似た性質を持っているので相乗効果があって、良い組み合わせと言えます。
わさびもネギもつゆに入れてしまう人がいますが、つゆの味を消してしまいます。蕎麦の上に都度少しずつ乗せて食べるのが味わい深い食べ方です。バリエーションとして、蕎麦をつゆにつけて食べる合間に薬味だけ食べるという方法もあれば、つゆをつけずに蕎麦と薬味だけで食べるというのもアリです。
基本的には主役の蕎麦を引き立ててこその薬味ですから、適量を使って残っても構わないというスタンスで行きましょう。
2-2. 途中で噛まずに一気に食べる
蕎麦は噛まずに食べる。これも良く語られることですが、これは2つの意味を想像させます。口に入れる時噛み切ってはいけないのか、口の中で噛んではいけないのか、どちらでしょうか?
これは「蕎麦の香りをより深く楽しむため、すする途中で噛み切らない」という考え方が「噛まない」の部分だけクローズアップされたものです。ですから口に入れたものは噛んで食べても大丈夫です。ただしやはりのど越しは重要ですから、あまり細かく噛み砕くというのではなく、このコラムでは数回程度噛んで飲み込むという食べ方をおススメします。
蕎麦そのものは比較的消化が良い食材です。しかし蕎麦はお腹の中でガスを出して膨らむ性質もあります。これは健康上問題がなく、むしろ腹持ちが良いという利点ではあります。しかし胃腸が弱い人にとっては、あまり噛まずに食べるのはよりもたれる原因となることがあります。
通ぶって噛まずに飲み込んでお腹の調子を悪くする、などと言うのは江戸っ子に言わせれば粋ではありません。適度に噛んで美味しく食べ、消化にも良いというのが蕎麦の良いところです。
2-3. 蕎麦は音を立てて食べるのが常識
多くの食事では食べる時に音を立てるのはマナー違反ですが、蕎麦はむしろ音を立てて食べるべき食材です。これは何度も書いてきた「香り」を味わうためで、すする行為によって口から鼻に蕎麦のさわやかな香りを運ぶ、という重要な役割があるからです。さらに、すする方がつゆと蕎麦をバランス良く同時に口に入れるのにも向いています。ですから「音を立てて良い」のではなく「蕎麦を美味しく食べたいなら音を立ててすすろう!」と理解してください。
ただし、これはもちろん蕎麦を食べる時の行動です。そば湯を飲むとき、付いている汁物をいただくときはやはり音を立てずに上品に口にしましょう。
2-4.蕎麦の寿命は短い
蕎麦は一般的に伸びやすく、ゆであがってから刻一刻とコシが抜けていく食べ物です。ですから、素早く食べるのが美味しい食べ方であると言えます。
「そば通」を自称する人の中にはほとんど「フードファイトか?」と思わせるような速度で食べる人もいます。もちろんそのような人は食べる間一言もしゃべりません。普通の人がそこまでする必要はありませんが、さっと食べてから会話を楽しんだ方が良い、という程度の知識は持っていても良いでしょう。
ただ、知識という意味でもう少し細かく言えば、蕎麦の作り方によって伸びやすさは変わります。小麦粉を加えず蕎麦粉のみで作った十割蕎麦は伸びやすい特徴があります。
一方、更科蕎麦と呼ばれる白っぽい外観のものは十割蕎麦に比べたらさほど伸びません。十割蕎麦であればより素早く食べる、などケースによって攻略法を変えることこそ「ツウ」への道と言えるでしょう。
3. 仕上げは「そば湯」で堪能
「そば湯」は蕎麦のゆで汁のことで、ルチン、ビタミンB1やB2などの蕎麦の栄養が豊富に含まれていますから健康効果もあります。それらを逃さないためにもぜひいただきましょう。そば湯は蕎麦を食べ終わったから、仕上げにいただくのが一般的です。そのまま飲んでも構いませんし、つゆで割る、薬味を入れるなどももちろんありです。
お店によって急須状の容器に入れられてくるものもあれば、湯呑に注がれて来る場合もあります。そば湯を飲む風習は信州で始まり江戸にも広まったものなので、関西や九州ではそば湯が出ない蕎麦屋も珍しくはありません。最初に出されなくてもお店の人に言えば出るというところもありますから遠慮せずに聞いてみましょう。
4. まとめ
いかがでしたか? 「そば通」への道がいくらか見えてきたのではないでしょうか?蕎麦という食材自体は長い歴史を持っていますが、現在のような形態の食べ方になり、「粋」という言葉が付いて回るようになったのは江戸時代からです。
調べれば江戸での広まり方にも「砂場」「やぶ」「更科」などのバリエーションがあります。製法や蕎麦粉の引き方や練る際の配分などもいろいろあり、大変奥が深い食べ物でもあります。
さっと軽く食べるもよし、てんぷらなどと合わせてしっかり食べるもよし、お酒の締めに蕎麦というのも粋な食べ方です。 これを機会にあなたなりの蕎麦ライフを堪能してみてください。